研究紹介(論文):硫酸エアロゾル生成をモデル化には「ダスト」と「鉄溶解度」の考慮が大事

大気環境領域の松木篤准教授、服部祥平連携研究員(南京大学准教授)、板橋秀一(電力中央研究所主任研究員)らは、能登半島での硫酸エアロゾルの観測と大気化学輸送モデルの比較から、硫酸エアロゾル生成の高精度化に重要な要因はダストと鉄溶解度であることを見つけました。これらは硫酸エアロゾルによる大気汚染や気候影響を将来に向けて予測することに役立つ知見です。

大気中でSO2から生成される硫酸エアロゾルは、気候変動や健康影響との関連から重要な物質です。このため、シミュレーションモデルによってその動態を解析し、今後の予測をしていくことは重要です。しかし、これまでモデル内の”化学反応”が実際と一致しているか異なっているかを判断する手法はなく、観測とモデルの不一致の要因がどのようなメカニズムであるかを特定することは困難でした。

そこで、硫酸エアロゾルの三酸素同位体組成(D17O値)という大気化学反応過程を追跡する手法を能登半島での観測に適用しました。そして、D17O値の観測結果と領域化学輸送モデルCMAQによる予測値と比較しました。その結果、硫酸濃度だけでなくD17Oもモデルと観測で一致させるには、(1)タクラマカン砂漠やゴビ砂漠から供給される大気ダストによる大気酸性度の変化と、(2)鉄の溶解度が東アジアでは高いことを考慮する、の2つが大事なパラメタだということがわかりました。

このように「より正しくなったモデル」を作ることで、過去・現在・未来の大気汚染や気候変動の予測に役立てることができます。

雑誌名:Environmental Science and Technology

論文名:Role of Dust and Iron Solubility in Sulfate Formation during the Long-Range Transport in East Asia Evidenced by 17O-Excess Signatures

発表者名:S. Itahashi, S. Hattori, A. Ito, Y. Sadanaga, N. Yoshida, A. Matsuki

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