金沢大学大学院自然科学研究科博士後期課程の岩田歩氏,および大気環境領域の松木篤准教授らの研究グループは,雲の中で氷の結晶を形成する働きを持つ氷晶核を正確に判別する新たな手法を開発し,実際に黄砂飛来時の浮遊微粒子状物質(エアロゾル粒子)(※1)に含まれる氷晶核の分析に成功しました。こうした研究の発展は,将来的な降水や気候変動の予測精度の向上につながることが期待されています。
 本研究成果は,2018年2月7日に学術雑誌「Atmospheric Chemistry & Physics」に掲載されました。

 

【研究の背景】
 もしも雲を形つくる水滴がすべて純粋な水のみで出来ていたとしたら、上空で0˚C以下になっても凍ることはなく,およそマイナス37˚Cほどまで冷やされないと自発的に凍結することはありません。しかし現実にはそこまで低温にならない比較的高度の低い雲(マイナス15˚C前後)の中でも氷の結晶(氷晶)が存在します。これには氷晶の形成を手助けする空気中の不純物,すなわち氷晶の核として働くエアロゾル粒子の存在が不可欠です。この氷晶核の働きは,日々私達が目にする雲の出来方や雨や雪の降り方とも深く関わっています。半世紀以上も前から,大陸から黄砂が運ばれてくると大気中の氷晶核の数が増え,気候に大きな影響を及ぼす可能性が指摘されていました。しかし,すべての黄砂粒子が平等に氷晶核として働くわけではなく,なぜ限られた一部の粒子のみが氷晶核として働くのか,その性質は十分に明らかになっていませんでした。その背景には,大気中にあるエアロゾル粒子の1,000〜100,000個に1個程度の割合でしか存在しない氷晶核を正確に見分けなければならないという,文字通り雲をつかむような話に例えられる技術的な問題がありました。

【研究成果の概要】
 松木准教授らの研究グループは,実験室内の装置の中で実際に雲ができる水蒸気と温度条件を精密に再現し,大気中で採取した粒子を氷晶ができる条件に晒すことで,氷晶核を極めて精度よく見分けることに成功しました(図1)。
 さらに本研究では,大陸から日本海沿岸に長距離輸送されてきた黄砂粒子を含むさまざまな種類のエアロゾル粒子の中から,実際に氷晶核として働く粒子を同定し,その多くは粘土鉱物からなる粒子であることを明らかにしました。一方で,一部の黄砂粒子は海洋大気中を輸送される過程で海塩などとの混合により変質しており,氷晶核としての本来の働きが阻害されている可能性も示しました(図2)。

【今後の展開】
 本研究が示した新たな研究手法は,従来のように直接雲にアプローチするための航空機や山岳域の観測所といった大掛かりな研究設備を必要としないため,室内実験により比較的簡便な手法でエアロゾル粒子の試料を採取し,氷晶を形成する粒子を正確に同定することができます。本研究手法は,今後さまざまな地域を対象としたエアロゾル粒子と雲の相互作用の研究に応用することができます。これにより,今後は粘土鉱物のわずかな組成の違いや,さらにはバクテリアなどの生物粒子との混合が,黄砂の氷晶核活性にどのような関わりをもつかといった研究の更なる進展が期待でき,ひいては将来的な降水や気候変動の予測精度の向上につながります。

本研究は日本学術振興会 最先端・次世代研究開発支援プログラムの支援を受けて実施されました。

【掲載論文】
雑誌名:Atmospheric Chemistry & Physics, 18, 1785-1804, 2018
論文名:Characterization of individual ice residual particles by the single droplet freezing method: a case study in the Asian dust outflow region
(黄砂飛来時における単一液滴凍結法による個別氷晶残渣粒子の特性評価)
著者名:Ayumi Iwata and Atsushi Matsuki (岩田歩, 松木篤)
URL: https://doi.org/10.5194/acp-18-1785-2018

【用語解説】
※1 浮遊微粒子状物質(エアロゾル粒子)
大気中に浮遊する黄砂やPM2.5などの微小な液体または固体の粒子。

fig1_180207
図1: 採取したエアロゾル粒子の中から,氷晶の核として働く粒子を同定
黄砂飛来時に採集したエアロゾル粒子(左)を顕微鏡下で雲が形成する条件に晒すことにより,丸で囲った粒子(=氷晶核)を足掛かりに成長した氷の結晶(右)を確認

fig2_180207
図2: 氷晶核としての働きが強い粘土鉱物主体の黄砂粒子(左),氷晶核としての働きが弱い変質した黄砂粒子(右)